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松江家庭裁判所木次支部 昭和37年(家)109号 審判

申立人 梅田敬之(仮名)

相手方 梅田久子(仮名)

主文

本件申立を棄却する。

理由

申立人は「申立人と相手方との間に出生した長男進、二男実の親権者を申立人に変更する。」との審判を求め、その実情として次のとおり述べた。

一、申立人と相手方は昭和二十六年十二月二十八日婚姻し、長男進(昭和二十八年八月二十三日生)、二男実(昭和三十年五月十七日生)をもうけたが、昭和三十六年五月四日協議離婚した。

二、離婚の際、子二人の親権者を父である申立人と定め、当分の間は申立人の父母が養育し、後日申立人が引き取るという話し合いのもとに、申立人は子二人を申立人の父梅田与助に預け、離婚届出手続を委ねたところ、与助は、ほしいままに子二人の親権者を母である相手方と定める旨の届出をした。

三、申立人は、現在生活も安定し、内縁の妻の同意を得ているので、約束のとおり子二人を引き取り監護養育したい。

相手方は主文同旨の審判を求め、申立人主張の事実中、婚姻、子の出生及び離婚の点を認め、子の親権者及び養育者について申立人主張のような約束がなされたこと、及び申立人与助がその約旨に反する届出をしたことを否認した。そこで考えるのに、まず、申立人と相手方が昭和二十六年十二月二十八日婚姻し、長男進(昭和二十八年八月二十三日生)二男実(昭和三十年五月十七日生)をもうけたが、昭和三十六年五月四日協議離婚をし、子二人の親権者を母である相手方と定める旨の届出がなされたこと、以上の事実は当事者間に争がない。次いで親権者指定の点については申立人審問の結果によると、申立人夫婦は婚姻中、相手方の現住所である島根県仁多郡横田町大字横田町九〇〇番地の申立人の父与助方に同居していたのであるが、離婚により申立人が与助と別居し横田町を去ることになつたのに対し、相手方が帰住する実家は同町内にあつたことなどの事情もあつて、相手方から申立人に対して「自分は横田町でいることでもあるし、親権者を自分にしてもらいたい」旨申し入れたところ、申立人がこれを承諾したことが明らかであり、また相手方審問の結果によれば、相手方が親権者指定についての申し入れをするにあたつては、相手方が町役場戸籍係員から教えられた「親権者」の趣旨を申立人に説明したこと、相手方は申立人の承諾にもとづいて離婚届書に親権者を母である相手方と定める旨の記載をしたうえ、仲人である申立外高橋一郎に依頼して届出をしてもらつたことが認められる。以上の認定に反する申立人の主張は、これを認める証拠がなにもない。

そこで進んで親権者変更の当否について判断する。申立人審問の結果によれば、申立人の父与助は、離婚後実家に帰つていた相手方を呼び戻したうえ、昭和三十六年十月二日与助夫婦の養子として入籍し、今日まで同居生活を続けているので、申立人の気持としては、割りきれないものがあり、相手方を与助方から退去させるためには、何よりも相手方から親権者の地位を取り上げるべきだと考えて本件申立に及んだものであることが認められ、一方調査の結果(家庭裁判所調査官の調査結果報告書)によると、次の事実を認めるに十分である。

(1)  相手方が実家に帰つている間は幼い子二人は夜になると相手方のもとに泊りに行つたりする状況であつたため、与助は孫たちの将来を考えて相手方に対し、自分等夫婦と同居し子二人の面倒を見るようにすすめ、次いで相手方を養子として入籍したこと。

(2)  相手方は与助のすすめにより、子どものために再婚を断念し、もとの婚家で家業手伝をしながら子どもの監護教育にあたつており、教育的関心も十分であること。

(3)  子どもは父母と別居した当時は情動不安な様子がうかがわれたけれども、母と同居して以来、落ち着きを取り戻し、学業にいそしんでいること。

(4)  相手方には資産はないが与助は居町で有数な衣料品商を営み、夫婦ともに孫に対する愛情は極めて深く、その教育にも熱心であること。

以上明らかになつたところに照らすと、子どもに対する申立人の愛情が深く、その内縁の妻が子どもの引き取り方を望んでいるにせよ子どもの生育環境を一挙に転移し、なじみの薄い申立人と見知らぬその内縁の妻に監護を委ねることは、子どものためにも好ましい結果をもたらすとは考えられない。まして前示調査結果によれば、申立人の内縁の妻は夫と二人の子どものある身で妻子のある申立人と恋愛関係に入り、子どもを夫に残して離婚し、申立人と一緒になつたものであることが認められるので、子どもの監護を託すについては不安がないとはいえない。

そこで本件申立はこれを不相当として棄却することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 平井哲雄)

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